あらびっくり。また日経新聞に載ってしまっただ( ̄□ ̄;)!!

 今日の日経新聞に、私が持論にしている「二階建て制度案」に関するインタビュー記事がでていました*1。本当はもっと長〜い内容だったのですが、あそこまでギュッッギュと詰められるものだと感心するくらいコンパクトになってました(紙は貴重な資源です)。さすがにあそこまでコンパクトになると、ちょっとセルフコメントをしておいた方がよいかなと思ったので、ブログで書くことにしました。


 まず、この「登録制」なるもののアイデアの根幹は、不動産の登記制度にあります。
 著作権を全く作り替えてしまうことは私の目的とするところではありません*2。あくまで無方式主義で著作権は発生し、契約に関する意思主義と自由主義の原則にのっとって法的関係は確定するというフレームワークは崩さないということを前提としました。実は、これは民法上の物権とほぼ同じ条件です。そこで、不動産登記制度が応用可能であると考えたのです*3


 実は、この単純な登録制度からスタートしたものの、現在の境版登録制度案は、元来の登録法制と、契約法とのハイブリッドとなっています*4
 元来の登録法制の部分では、登録によって国がそのコンテンツを強く保護するかわりに、窓口一本化や再創作向け小規模利用公開*5などの義務を認容することを権利者に求めています。まぁ一言で言えば、コンテンツの社会的取扱について、著作権法を前提として、国家と権利者との間である種の社会契約を再度取り結ぼうというわけですね*6


 わかりにくいので説明しておきたいのは、もう一つの契約法の部分です。
 契約法というと契約内容を法律で決めてしまうと思われがちですが、これは全く間違った理解です。契約法もあくまで契約自由の原則の上に立つものですから、若干の強行規定を除けば関係者が結んだ契約の方が契約法で決められた内容に優先されます*7。そして、そのことが、関係者に明示的な契約を結ぶことを促すのです。
 コンテンツに関する法律問題を論じるときに、関係者が契約を結ばない、ということが外部者の口から不満としてしばしば漏らされます。これは正しくなくて、合意内容を文書で確定しないだけのことです。これに対して標準契約書を提案したり、契約カードの採用を要請したりというアプローチが政府からなされましたが、その効果はとても薄いと考えています。なぜなら、そんな面倒で、時間がかかり、ひょっとしたらケンカになるかもしれないようなことをするメリットは、関係者の側にはないからです。契約法があると、もし文書で確定した合意内容がなければ、法定の契約内容が適用されてしまいますから、不都合が生じます。だからこそ合意内容を確定する文書を作成するメリットが生じるわけです*8
 そしてこれにはもう一つの効果があります。コンテンツの特に一次利用以降の利用法について、関係者が方針を決めていないから議論ができないので利用許諾ができないという事態がしばしばあります。契約法典があれば、これが合意を補完しますから、関係者が対応を決めていないから議論ができないという事態も防ぐことができます。なんとまぁ便利なことでしょう。


 この二階建て制度は、そういう意味で、一見すると法律で全てを規定するようなアプローチに見えるのですが、実は契約法理を契約メカニズムを十分活用したシステムになっているわけです。


 あの短いコーナーの中にこのメッセージを入れることは不可能なので、分量無限なブログで補足しました。それでも、天下の日経新聞に掲載してもらって、アイデアをご紹介する機会をいただいて、感謝です。それだけで、とりあえず、前進。



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*1:本当は6月30日の日経新聞の経済教室に掲載されたのがパブリックに出したのでは初見でしょうか。このアイデア自体は2002年頃から検討を始め、2003年初の課内議論ペーパーに載せたのが最初に形にしたものです(これはコミケで出した「蔵出しvol1」にも掲載しました)。その後、とある研究会で発表したところ、それを法律少女真樹名17歳さんがIT@RIETIで取り上げていただくなどしました。実に足かけ4年くらい、時間をかけて醸成してきたものです。

*2:現行の著作権法の精神に賛同しているというのではなく、そんなことに拘泥していると現実の改革は一切進まないという理由です。

*3:不動産登記制度はすでに確定した権利状態を公開する代わりに保護するというのが本質。登録制というと特許などの工業所有権を想起する人もいると思いますが、特許はあくまで登録によって権利が発生するという構成。大分違います。

*4:したがって登録によって権利状態に一定の型をはめようとしているわけです。これは一見すると著作権の内容を変えているようにも見えますが、登録はあくまで任意なので、権利者が承諾しない登録はあり得ませんから、一種の契約行為であって、著作権の内容を変更するわけではないのです。これが二階建て案の妙です

*5:これはコミケ講談社マガジン編集部が発表したa.著しく作家の意図を傷つける改変ではない、かつ、b.事業規模が小さく本来の出版業に影響が少ない(無償・・・と言いたくなりますが、コミケなので再創作物が販売物であることは前提なのです)場合は、著作権の行使をしない、という原則に強くインスパイアされています。これは、簡便かつ十分な名作だと私は評価しています。

*6:なんと、登録法は著作権法とは新訳と旧訳、あるいはクルアーンと聖書の関係に立つわけですね。どのレベルに留まるとしても、みんな創造主に従う人達で、異教徒ではないと。う〜む、含蓄が深い。

*7:任意登録制とパックになった場合、その強行規定すら、強行=強制どころか、権利者が自ら受諾したある種の契約の結果ということになります。

*8:この視点からは、逆説的ですが、契約法の内容が現実の要請からずれればずれるほどこの効果があるということになります。そこで、ややクリエイタ優位で、青臭いほど権利義務関係がきちんとなっている理想主義的に現実からずれた内容を法定し、ビジネスモデルを支配する力がある事業者が自らの力を背景にそれを修正した契約を結ばせていくというのがあるべき形かなと考えています。