ボカロとMMDに関して今朝考えてたこと

 さて、Twitterで、佐々木俊直さんのTweetを踏まえて書いたTweetから、クリプトンの社長さんとやりとりがありました。年の瀬、今年の最後にボカロについて考えていることを書いておこうと思います。
 長文になってしまって申し訳ないと最初にお詫びしておきます。


 まず、大前提ですが、何度もTwitterブログで書いているので今さらだけど、僕は経済産業省という役所に勤めていて、コンテンツ産業の視点も含めていろいろ仕事をしているものの、文化産業戦略とかクールジャパンといったものには一切関与していません。それはクールジャパンという考え方にあまり意味がないと思っているからだし、それを声高に叫ぶことそのものの費用対効果が低いとも感じているからです。そして、事実、クールジャパン関連政策については組織外の人達とほぼ変わらない位置にいます。そこは大前提です。


 さて、ボーカロイド(以下、ボカロ)ですが、自分はそれをコンテンツ再生技術(表現技術と言ってもいいかもしれない)の一つと理解しています。
 コンテンツ再生技術とは、知覚体験をデータ化する技術のことで、この技術の上でいろいろなコンテンツが生まれることになります*1。そういう意味では、ボカロの誕生は、文字と印刷とか、レコードプレイヤーの発明と同種の事件だと考えています。
 ネットとコンピュータの時代になり、webブラウザというコンテンツ再生技術が生まれました。ここからがそれまでのコンテンツ再生技術と違うところだと思うのだけど、このwebブラウザweb2.0への変化の中で、アプリ間連携を強く志向し始めました。サービスのマッシュアップと言ってもいいかもしれない。


 ボカロは、こういう時代に登場したとても面白いコンテンツ再生技術だと思います。
 白状しておきたいのだけど、件のTweetをした段階で、僕の考えには間違いが一つありました。それはボカロとMikuMikuDanceを少し混乱していたということです。自分はヤマハ音声合成エンジンを使って歌を歌わせることと、初音ミク鏡音リン、レンの3Dダンス映像との組み合わせをボカロと考えていましたが、それは間違いで、ボカロは前者(歌を歌わせること)のみであり、後者(ダンス映像生成)はMikuMikuDanceの領域だとしなければならないですね。ここは訂正しておきます。
 ただ、頭の中には両者が一つになったものがイメージとしてあったのは事実です。そこで、これをボカロと呼ぶことに問題がある以上、とりあえずMikuMikuDance(以下、MMD)と呼んで話を進めようと思います(これでも間違いかもしれないが。違っていたら、どこかでご指摘いただければ)。


 先だっての初音ミクライブイベントは、当日その場所にはいなくて、後からネット上のムービーとかDVDで見たのだけど、脳天をぶったたかれるような衝撃を受けたのは間違いないです。件のTweetを書くきっかけになった、佐々木俊尚さん( @sasakitoshinao )の"ボーカロイドの世界進出。日本の文化が世界市場の中でどのようなモジュールを取ることができるのかを考える時期。" というTweetで参照されていたブログ、Cool Japan: Meine Sacheを見てもそうだし、日々ボカロ話に燃えている朝日の丹治さん( @Tristan_Tristan )から話を聞いても、海外で受けていることはよくわかります。
 いろいろな理解の仕方があるでしょうが、何よりも、初音ミクという非実在のキャラを対象にして実在の人々が実際に集まり、楽しむ姿の、非実在と実在のコントラストが衝撃的だったことは共通でしょう。
 Meine Sacheにも書かれていたけれど、来年3/9の"初音ミク・ライブパーティー2011"には海外からも注目が集まっているらしいです。この日本から生まれた存在(こういう言葉しか見つからない言語センスの貧困は口惜しい限り)で、キャラのデザインからしてとても日本的なものが、海外から注目されているのは、やはり面白い。
 MMDが海外にどう受容され、どのように海外からの参加が生まれてくるのか、そこらへんは、来年、注目され、論じられるところだろうと思っているというのは、こういうわけです。


 さて、しかし、MMDはコンテンツ再生技術なのであって、今であればサービスのマッシュアップに対応し、様々なサービスやコンテンツ再生ソフトと連携して、連関して僕らを魅了する体験の一角を担うようになるのではないか。僕はそう考えます。
 プログラム間の連携を実現する方法にはいくつかあるけれど、煎じ詰めれば重要なことは、APIを整備し*2、またデータ形式をきちんと決めて公開することだと思う。
 ここで念頭にあったのはコミPo!で、ここでもキャラクターの3Dデータが重要な意味を持っています。コミPo!MMDの間でキャラデータが共有できたら面白いことにならないか、とか僕は割と素直に思っている。その方が面白く祭りができそうな気がして。


 こうしてMMDと他の3D系のソフトの間でデータを共有できるということを考えると、重要なことはデータ形式の共通化、標準化ということになり。
 だが、データ形式を共通にし、標準化するなんて言ったって、誰がどうやって決める?どこかの団体や、ましてやどこぞの政府がしゃしゃり出たってうまくいくわけない。データ形式なんて無視されたらおわりなんだから。そもそもMMDの中の人がそれをやりたくなかったらどうする?逆に、やりたければ自分で進めるでしょうし。
 それに、別に標準化なんていわなくても、データ間のコンバータ作ればいいということもあるし。


 で、"標準化"とかいうと、政府…という言葉が頭に浮かんでしまうのです。ここは仕事柄。
 そもそも、初音ミクのことを政府は気づいていないだろうか?いや、佐々木俊尚さん始め識者は続々と語っているわけですし、例えば経済産業省でいうと北海道局とクリプトンさんはお付き合いもあるわけで、もう十分気づいていると思っています。
 しかも、ここまでの思考の中には、「世界への展開」とか「データ形式の標準化」とか、嫌なほど脊髄反射で政府が飛びつきそうなキーワードが転がっている。こうした分野で政府が自分の都合でいろいろ動くと、失敗することが多いです。使いやすいものができない、(デジュールの場合)標準として認めてもらえない、果ては作っても無視される、と。いろいろな失敗のパターンがあります。
 もしこうした思考で政府が初音ミクやボカロ、MMDに触手を伸ばすとしたなら…。そりゃ恐怖です。こんなものに巻き込まれちゃいけない。
 第一、もしMMDの中の人(僕は直接コンタクトがありませんから)がそういう連携をしようと思っているなら、それを支援するという方法もあります。あるいは何も能力がないのなら、温かく見守って何もしないのが一番ということもあるでしょう。
 そして、一度政府機関(経済産業省でも総務省でも知財本部でもどこでもいいのですが)がそういうふうに目を付けたとしたら、僕には何もできません。だから、彼らが何をするか。せめて何もしないという選択肢を選んでほしい。そう思っています。


 もちろん、一番よいことは、政府の都合で無理なプランを押しつけたりせず、虚心坦懐、関係者とパイプを作って話してみることだと思っています。ひょっとしたら、みんなの利益になる方法があるかもしれない。それなら悪くない。けれど、ボカロやMMDの中の人とちゃんと納得ずくでやらないといけないですよね。
 ただ、ここで気になるのは政府というものの立ち位置です。政府が支援、と聞いただけで萎える人もいますし、怒り出す人もいます。元々、ネット上の人々の支持で生まれたムーブメントですから、そこら辺の読みは大事です。政府は分をわきまえなくてはならない。このことはかつてコミケの米澤代表ともよくよく話したことがありますが、今でも心に浸みて理解しているつもりです。
 それに、初音ミクに日の丸を付けるのも余計なイメージを付加してしまい、せっかくのミクを台無しにするようにも思えます。まぁここらへんは「国」と個人の関わり方の問題でもあるので、異論はあるでしょうが、自分はかなりネガティブです。


 つまるところ、初音ミクを日本という国家とは結びつけたくないという想いが、僕にはあります。


 そもそも自分はあまり「日本が勝つ」とか「日本が強くなる」とか、そういう主語としての「日本」には本来なじみはないありませんでした。今でも、自分が住んでいるこの経済圏が豊かで、私たちの生活が楽しいものになることには強い関心があります。ですが、それを「日本」という言葉では理解していないのです。時として「東京」だったり、「アジア」だったり、もっと別の言葉で考えた方がしっくりくると思うときもあります。
 ただ、仕事では、「日本」という言葉、概念と日々格闘しています。いや、一緒に戦っているというべきでしょう。
 そういう意味で、政府目線、つまり自分が政府の担当になったつもりで考えると、どういうことをするだろうか、と考えてみます。
 大々的な初音ミクMMD世界戦略を国が主導して…というのは幾重にもばからしい話なので、絶対やらない、と。標準化戦略とか環境整備も、そりゃボカロやMMDの中の人と連携していい形でできるならともかく、それを提唱はしたくないと。それでもなおかつ「日本」というものがより有利になる施策を考えるとすれば、それは、初音ミクを支えているこの日本のユーザー達の力そのものが世界を巻き込んでいくような構図を作るしかないのかな、と。
 その一つとして、例えば世界中からMMDのキャラが集い、歌い、踊るコンテストみたいなものを日本でできないか、と。ネット上でやるのはもちろんですが、初音ミクライブイベントのようなシステムを定式化できるのであれば、そこでのデータ形式も仕様を明らかにしてもらえれば、本戦はライブイベントでということもできるし。何より、日本のファンは一番の目利きですから、日本のファンが認めるものが世界一という文脈も素直に引けるかもしれないし…。
 もちろん、政府が前面に出るのはダメなことはいうまでもないですが。


 もし、自分が担当する立場になったら、こういうやり方を考えると思うのです。もちろん、これとても「日本」がテーマになっているような気がして、自分はあまり好きではありませんが。


 こんな想いを140字にしてみたらあんなTweetになったというわけです。


 と、まぁこんなことを考えながら、ボカロとMMDが切り拓いているところを、年明けからもっと勉強してみよう、考えてみようと思っているわけです。


 さて、これから年越しそばをゆでなくては。
 0:00の瞬間には、僕はおそばを食べているでしょう。
 そんなわけで、一足早く、年明けのご挨拶を。

 旧年中はお世話になりました(多分)。最悪よりはかなりましな一年だったと思います。
 みなさんがもっとハッピーになる一年になりますよう。もちろん、自分ももっとハッピーになるよう頑張りますが。
 メールと年賀状とTwitterでご挨拶できない方々にも、新年の言祝ぎを。
 フライングですが(w

 あけましておめでとうございます。



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*1:技術はコンテンツの蓄積に先行する。

*2:厳密な意味では違うけど、他のプログラムにプラグイン化して入れることも広義にはここに入れていいと思う。