P2P流通の補償金問題について

 う〜ん、経済学からのアプローチをしているものとして、これは評価が難しいのねん。
 著作権法の経済学的な側面から見た根本的な問題は、許諾権方式の是非にあります。許諾権方式が正当化されるのは、価格という条件を調整するための市場を設定するには必要だからです。もちろんこれは交渉という一種のコストを生みますから、それを回避したい利用者の視点からは、報酬請求権への移行という議論がされるわけですが、この請求できる報酬レベルを決めるためには市場が要るという話になると、結論が許諾権へ帰る、という矛盾が起きる。
 価格の決定というメカニズムについて市場調整力を使おうというのは、パレート最適の考えに基づく(今の)正統派経済学の立場からはごく真っ当な考えです。しかし、現実に目をやると、当のパレート最適が前提にしている純粋経済人による理想市場の考え方はずれているわけで、すごく激しく否定されている*1。はっきり言って、僕がこの市場論に依拠しているのは、僕をはぐくんでくれた経済産業省規制緩和論のテーゼだったという経緯的理由だし、百歩譲ればそれを越えるメカニズムを個人として全き形で提示できないという力弱さのゆえです。白状します。
 そうすると、どうせ許諾権方式も理論的に問題が多いとするなら、もういっそのこと全部報酬請求権にするんだ、という考え方が起きてもいい。音楽でJASRACがやってることなんてまさにそうだもんね。許諾権制度と報酬請求権制度とを二重化しようという僕の理論はこの矛盾を真面目に止揚しようとしているわけですが、それをさらに越えて、全部報酬請求権でいいんだという考え方もありうるのかもしれない。うん。
 その場合は、その報酬水準の決め方に論点が移るわけだな。かつて作った二階建て法制素案に含まれていた報酬水準決定方法では、主務大臣が命令で決めて、それを関係者の意見を聞きつつ数年に一度更改するっていう伝統的な方式にしていたが、さてさて、総務省はどんな案を出してくるのだろうか?


 でも、まぁ、現状に問題があることは事実だと思うから、議論が始まっただけでも、とりあえず前進!である。
 あ、そうそう、ホームページを作りました。個人ポータルというようなレベルですが。アドレスは www.sakaimasayoshi.com です。とりあえず開いたという感じですが、それもとりあえず前進!なのだな。
 前進する限り、自転車は倒れないのだ。



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*1:大きく分けると、批判の方向は三つあると思う。一つは、伝統的ミクロ経済学からの意見で、市場の条件が理想的でないというもの。それと、ゲーム理論に代表される意思決定理論的な方向からの、意思決定の傾向に関する実験結果をベースにした批判(いわゆる行動経済学)。さらに社会学的に、そもそも主体の意思決定の中で経済的モチベーションは全体の一部に過ぎないという批判もある。ま、どれをとっても、パレート最適は机上の空論、ってことになる。