混同は困るぞ。ホント。と思ったこと

 いまさら旧聞に属するが、464.comの主催者がタイーホされた。実は、このサイトについて、つい先日あるMLで、これはやばいんだろうか的書き込みがあったので、ヤバイ、ヤバイとご説明したところ。カキコでは、読み終わった本を転売するのはよいのに、アップするのはダメなの?という、ごく自然な質問が寄せられていた。いうまでもないが、転売するのは消尽理論でよいことになっているが、アップするのは複製権を侵害しているので、まずい。混同すると頭こんがらがるぞ。
 でも、これについては二つコメントしたいことがある。一つは、主催者氏が後付で許諾を取りに行ったこと。おいおい、後付は、よほど大物に成長した後でないと*1やばいぞ。ダマでずーっとやるか、おとなしく止めて前非を悔いてすがるが、そもそも最初から許諾取りにいくかしろってーの。
 もう一つは、そもそも、転売は良くて、複製はダメという区切り自体が、今や意味あるかってこと。コンテンツ債権主義*2からすると、どっちも似たようなもんだってーの。まぁそれよりもっとマイルドな解決法はあるだろうから、転売も複製同様、違法化しろとまでは言わんが。ただ、転売か複製かという筋の通らぬ判断基準でなく、それがどれだけの潜在的需要を権利者のコントロールの効かない形で満たしてしまっているかということを基準に是非を判断すべきではないかと思う。


 で、こんがらがるといえば、一部でテレビ放送(特に地デジ)のIPサイマル(同時)再送信と、テレビ番組のIP配信の話が混同されているらしい。これまた困ったちゃんの話だ。
 IPサイマル再送信は、所詮その瞬間に世の中に流れている情報なので、それがネット経由であっても同じやんけ、という議論だわな。放送事業者はデジタル化投資の軽減になるし、ブロードバンドインフラ事業者はファイバー利用率が上がるし、ということで、ある意味ではどちらもwin-winな話ではあります。コンテンツの権利者や(広告放送の場合の)広告主は、というと、権利者はそもそも放送が国民全員(放送区域毎ではあるが)に受信可能にせしめる趣旨だということに鑑みるともともとの意図に合う行為だし、広告主にしてみれば実際のリーチが増える*3ので、どちらにもOKそうだ。そんなわけで、IP経由でもテレビ放送を受信できるようにしようよ、ということの言い換えが、「テレビ放送(特に地デジ)のIP同時再送信を著作権法上の放送と整理しよう」ということになる。
 そのことと、IP配信=”「同時」がない単なるIP送信”とは全然違う。まず、個別にリクエストに応じて配信することは、言葉遊びのレベルだが、あまねく受信可能にするという「放送」の定義には馴染まない。極論をいうと、いや、一つ一つの配信が放送なんです!という場合、それはすべて再放送だから、2年の内に2回の再放送許諾契約があるとすると、二人に配信したら権利使い果たすと考えるべきだ。権利者としては、そこまでは認めてないヨーってなことで、だからIP配信まで著作権法上の放送に整理しようというのは行き過ぎだということになる。
 ちなみに、混乱に拍車をかけているのは、いわゆる「インターネット放送」というものの殆どが、このIP配信をベースにしたサービスだということだ。つまり、「放送」の志に比べて、使っている技術が低いので、いわば「なんちゃって放送」、或いは「自称放送」なのである。最近よく言う「IPマルチキャスト」ってのは、そういう意味では「放送」の志に見合ったくらい高い技術なので、これを、そのサービスが「放送」かどうかのメルクマールにしようってんだな。わかるけど、直接の関係はないし、誤解も生みやすいから、そんなこと言わずに、単に「IP同時再送信」とすればいいじゃねーか。あーややこしい。
 同じ放送コンテンツのIP経由の流通なのだが、総体として放送である行為の一部を元来予定していなかったインフラでするだけということと、そもそも放送とは直接縁もゆかりもないとは、当然取扱が違うわけ。これは理解していないと困るし、テレビ局の人がもしこれを説明せずにIP配信権*4を投資の見返りとして要求したり、奪ったり、買ったりしてるとするなら、そりゃ我田引水だよ、ということになる。まかり間違って、製作を委託することと抱き合わせで販売するとすれば、これは独禁法上もまずい。
 というわけで、こんなに違うのだから、IP経由で運んでいるだけのことで、テレビ番組のIP同時再送信とIP配信を混同してもらっちゃこまるんだぞ、ということ。




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*1:出る杭は打たれるが、出すぎた杭は打たれない。これ、名言。違反行為でもなんでも、やっちまってそれが新たな流通になるくらい大きくなって、ブランドとして確立してつぶせなくなるまできちゃうと、ま、所詮は許諾の問題だし、なんとかなる(かもしれない)。

*2:コンテンツはサービスの一種であり、パッケージメディアは利用権という債権を購入した、と考える説。パッケージが壊れた場合の修復要求ができるかわり、他人へのパッケージメディアの転売は債権譲渡と同様、(間接)債務者=著作権者の許諾が要ると考える。

*3:これを露出総量(今で言えば視聴率か)に含めるようにしろ、とはいいたいだろうが。そりゃ正論だよ。

*4:いわゆる公衆送信権の一態様