今年のテレビ各局のお正月番組は「面白かった」

 ちょっと遅ればせながらだが*1、今年のお正月のテレビは面白かった。いや、番組が面白かったというのではない。その編成が、地上波のテレビ放送というメディアの曲がり角を表しているようで、面白かったのだ。


 まず、チープな作りの番組が相次いだ。お笑い芸人を使った過度に長枠の番組*2は、企画作業を放棄したのかと思えるほどだった。吉本興業をはじめ、お笑い系プロダクション*3は、まさに今の地上波テレビ産業を支えるコンテンツ制作部門であると自負して良いだろう。その分だけ、局の制作部門は自戒すべし。


 次に、チープな作りの番組に混じって、各局が主力商品としてドラマを開発したことはそれなりに評価できる。しかし、アイボールを引っ張ろうとしすぎて露骨なプロモーションを展開した*4ことは、少なからぬ視聴者に違和感を与えたようだ。従来は、原則として番宣はCM枠での放送、そして番組内での別番組宣伝はバラエティ番組などの中でコーナーとして行うということが、一定の文法だったように感じている。それが、CM枠での番宣はもちろん、別の番組をまるまる番宣とするのは、英断だったのか、暴挙だったのか。


 この番宣番組とCMが溢れた背景として、CM枠の販売が不振だったのではないかと僕は推測する。販売が好調であれば、収入が発生しない自社枠である番宣を放送するのは不自然だし、もっとスポンサーからの注文があるはずで他番組の番宣番組を放送することも難しかったはずである。
 また、そう考えると、テレビ局は間接費の山なので、最初に影響を受けるのは他でもない番組制作費自体になると考えられ*5、チープな作りの番組が相次いだことも頷ける。


 この戦略は、経営学の教科書に従えば、選択的集中を実践したものとして高く評価されるべきである。
 それはわかった上で、これまで選択的集中なんぞしなくても収益が右肩上がりだったテレビ局が、戦略的経営を導入せざるを得なかった環境変化に着目したい。


 それがどういう変化に繋がるのか。
 それは、視聴者のリテラシーによって異なる。
 年末の「特ダネ!」では、おすぎが邦画好調の原因として、製作委員会方式を含めた業界の変化を解説してみせた*6。こんなことをエンドユーザ向けに説明するようになったのは、コンテンツ産業という考え方を鼓舞してきた者として感慨深いが、こうした視点を持つ視聴者には、少なくとも正月番組が主力番組とそのプロモーション番組に構造化されたことは見てとれたはずである。彼らは、すでにテレビ局が自らメディア競争の中の一つのプレイヤーであることを認めた、つまりすでにテレビ局の圧倒的な力は相対化の段階に入ったというように読み、テレビ局のブランドイメージが変化するかもしれない。
 何だかわからないけど、「お笑いばっかりだったね」という感想は、こうした裏読み能力がなくても持ちうる感想だろう。それはそれで、テレビ局には「座布団一枚とってくれ!」って感じで、ワンランクダウンの関心を持つだろう。
 テレビのメディア内覇権は、曲がり角とでもいうべき重要局面にさしかかったようだ。


 いずれにせよ、別の面から見れば、テレビ局は目覚め始めたように見える。今年が、かつて「放送と通信の融合」と呼ばれた、次世代型映像配信ネットワークを巡る制度確定が大きく進む年となることを期待させる。
 視聴者全体に、「テレビはいくつもあるメディアの一つであり、横綱相撲ができる王様ではないんだ」という感覚が共有される日、今のテレビ放送(に相当するもの)がテレビのリモコン(に相当するもの)から選ばれる画面の一つになる日は、そう遠くないかもしれない。それは、確かに前進していることなのだ。




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*1:お年始早々から息子が入院したりして(おかげさまで、もう元気になりましたが)それどころではなかったのよ。

*2:特にCXの1月1日。いや、まぁ年明けからなんば花月での大御所級の笑いが楽しめたのは、それはそれでよかったが。

*3:これに加えて、本来なら各局アナウンス室を挙げなければならないのだが、まぁテレビ局自身が働くのは当たり前なので、放っておこう。

*4:例えばTBSは「華麗なる一族」のプロモーションとして、同じ木村拓哉主演の「グッドラック」を突然連日再放送し、放送の最後に「華麗なる一族」の番宣を毎回挿入した。また、テレ朝は、渡哲也主演の「マグロ」の放送前に、マグロ漁にフォーカスした番組をいくつも放送した。

*5:テレビ局が仮にコンテンツ産業の意識を持つなら社員の給料を削っても制作費は維持しようと考えるだろうが、そうではない。このことは、数々の実例が証明する。

*6:テレビ局が邦画制作部門として、また影の宣伝部門として力を振るったことが邦画復活の原因(の一つ)であることを説明してくれたのは嬉しかった。ま、今や我が国最大の映画制作会社であるフジテレビのセルフアピールという点は差し引かなくてはならないが。