公務員人材バンク。う〜む・・・

 別の原稿書きと学生指導に一所懸命で、ブログどころではない。と思ってはいたのだけれど、昨日、「著作権法保護期間の堅調問題を考えるフォーラム」公開シンポ「『知の創造と共有』からみた著作権保護期間延長問題」に出た際の打ち上げで、公務員人材バンク問題について話が及んだので、ちょっとこれについて書き込むことにした。


 正直、頭痛がする。
 まず、この公務員人材バンク問題は、冷静に見るととても奇妙な構図になっている。
 奇妙さを確認しよう。新聞等報道を見る限り、今回の事案は、政府高官である塩崎内閣官房長官が策定した素案が、公務員の関与を切りすぎているといって、片山虎之助議員を中心とした自民党機関側の反対を受け、両者の議論を経て妥結に至ったというのが大方の経緯である。公務員の関与は、ここでは当該省庁=政府の職員の権益として認識されている。当の政府指導者が権益を放棄するというのに、権限を持たない外部者がそれを放棄させるなと言うのはかなり変な話だ。いわば、お母さんが自分の子供の玩具を取り上げたら、となりのオバサンが介入してきたようなものだ。
 これを頭の中でなんとか合理的に説明できないだろうかと考える。
 多分、こう考えるのが一番合理的だ。つまり、官房長官の公務員人材バンク案は各省庁と合意していない独自案だった。そして、各省庁は、この上司たる官房長官の指示に従いたくなかった。そこで、自民党機関に泣きついて、反対意見を出してもらった。
 もしそうであるなら、各省庁のこの態度は、国家公務員法上、呆れたものだ。


 以前、「情報通信省構想」を考えるシンポジウムに出たことがある。
 この問題に対して、僕は一貫して賛成の立場をとっている*1。その原因の半分は、国家組織法上の組織改編が目的ではなく、新たな人事政策を採用するための手段として賛成しているのだ。問題の根本は、そもそも専門性の高い業務について終身雇用制がそぐわないということにある。
 終身雇用制とそれにともなうローテーション人事と、日々アップデートされる専門的知見が十分にあることと、国家機関の業務パフォーマンスと十分であることが同時に成立するという考え方の基盤には、一つのフィクションがある。まず、専門性の高い分野で高い業務パフォーマンスを示すためには当該分野における専門的知見がいるということ、これは正しいとしよう。すると人事ローテで回ってくる度に、そこでの専門的知見を、経験もなしに、研修や読書で習得できる、できているはずだ、できなくてはならないということになる。


 ・・・そんなん無理だよ。特に、情報通信やコンテンツで。


 むしろ、公務員を固定して仕事を割り振るのではなく、仕事を固定して公務員を入れ替える方が、どう考えてもスジにあっている。そんなわけで、僕は公務員終身雇用制には反対しているし、逆に、中途採用、特に一度その省庁を辞めた人間を適切な待遇で再採用するルートを造ることを主張しているわけだ。
 10年以上公務員やってきて思うのだが、日々の仕事の中で、職業倫理は、就業期間に級数的に比例して失せていく。国家公務員はそれでもモラールがしっかりしている方かもしれない。だが、組織が崩壊の瀬戸際に追い込まれた人達、例えば旧雪印や、今の不二家の社員、あるいは夕張市職員にくらべてどうかといえば、そこまでではないだろう。
 他方、専門性について言えばそれほどない業務も多い。学校出て2,3年目の技術系職員が法律案を書いたりするのだ。法律職の技能でなければ法案が書けないというものではない。だから専門性の必要性と、モラールの必要性を秤にかけると後者の方が重要だ、と僕は思うのだ。単にそれだけが終身雇用制を問題視する理由である。


 で、公務員人材バンクなんだが。ま各省庁の人事部門の再就職斡旋担当*2を一所に集めるということなのだろう。ひょっとして、登録してもお声がかからない時の収入をその人材バンクが保証するというのであれば、これまでは特殊法人、関連団体、民間企業で持ってもらっていた人件費の一部を国がもつということにもなるのだろう。全体として、国が負担する公務員の人件費は上がることになる。本当の改革は、そうして公務員集団を保持するコストを可視化した上で、将来の政治判断に委ねるということなのかもしれない。
 新聞報道では「骨抜きにされる可能性もある」とか書かれているが、ま、可能性なんてレベルではなく、確実に「骨抜き」になるわな。


 ただ、僕も尊敬できる先輩たちをたくさん見てきた国家公務員の端くれとして、国家一種試験を通り、世間でとりあえずエリートと取り扱われることを甘受してきたのだから、ここは一発、誰に斡旋されなくても自分で自分の食い扶持は稼いでみせるという自負を持つのが、国家公務員としての責務ではないだろうか?と問いかけてみたい。
 志の持ち方を再確認できたということは、まぁこれも前進だよな*3




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*1:一部の方は、僕がまだ経済産業省に席を置く公務員であることを理由に、こうしたことについて心配してくださる。しかし、僕は国家公務員法上の制限を除けば、もちろん個人としては自由に発言することを許されている休職中の身である。それに、経済産業省はこうした自分の意見の表明にいちいち束縛を加えるほど、肝っ玉の小さい役所ではないと信じている。

*2:という名前はなくても、そういう仕事をしている人はだいたいいる

*3:津田大介さんにこの書き方はむりやり前向きにまとめているよね、といわれたが、無理矢理じゃない。問題点を無視するのが一番の害悪だから、まず問題を認め、失敗を認めることも前進だと思っているだけである。心底ね。( ̄ー ̄)ニヤリ