著作権法の違反行為の単純「非親告罪化」について

えー、娘が生まれました。そんなわけで、家中バタバタで、1ヶ月も何も書いてませんでした。うへー
原稿もたまってます。やること山積みです。ブログどころではない、という気もちょっとしていたのですが、
書かなければならないこともあるのです。


 例によって/.Jに報じられていましたが、たけくまメモでも触れられていたように、著作権法の複製権違反行為に対する従来の「親告罪」取扱を「非親告罪」とする案が政府内で議論されているそうです。以前ぜんぜん政府とは関係ない方面からたれ込みがあり、懸念は表明していたのですが、まさかーと高をくくっていたら、マジに話が進んでいるらしいという報道にビックリしています。
 発端は知的財産推進計画2007にあります*1。「海賊版対策」ということだったようです。
 それはともかく、これは「改悪」というよりも、法律の主旨を相当曲げるものとなる点に注意が必要です。


 そもそも、著作権は私権であり、言い換えれば、権利者が自分の自由にしてよいものです。問題は、仮に無断複製行為があったとしても、それは複製権保持者が事後的に認たり黙認したりすることもありえるわけで、それゆえ、この無断複製行為が法律上の犯罪行為を構成するためには、複製権保持者の意思確認が必要なわけです。
 仮に、こうした無断複製行為を無条件に処断する場合、少なくとも正統なる権利者があらゆる例外を認めず無断複製行為は犯罪化する意思があることを事前に表明しておくことが必要だと考えます。それなくして無断複製行為を全て違法化するというのは、権利法としての原則を崩すわけで、これは著作権法の基本的設計、構造にも関わる重要なポイントです。


 実は、小生はこの「非親告罪化」は立法政策として積極的に対応してよいとかつてから表明しています。ただ、それは、前記の条件を満たしていることが少なくとも前提です。すでに公にしているように小生は法的登録制度を活用したコンテンツの取扱に関する社会規範の準拠規範*2を作るべしと言っているわけですが、「非親告罪化」はそれと一体となることを前提に積極推進を表明していたわけでした。
 この前提条件を欠いた、むき出しの「非親告罪化」には反対であることを明確に表明します。


 たけくまメモでも触れられているように、最大の問題は、二次創作問題にあると小生は考えます。
 「キャラクターの流用」という行為は、立法政策上は、大きく言って著作権法による解決と不正競争防止法による解決と二つの方法があり得ると思います。ただし、現実は、サザエさん事件判決*3に縛られていると認識しています(もしこの判例が破毀されているのであれば、是非、小生を助けると思ってご一報ください)によって著作権法上の複製権を用いて、部分複製として処理することが判例上確立しています。
 小生は、そもそもここに大きな問題があると考えています。
 経済学的には、デッドコピー*4は明かな「複製」であると認められますが、二次創作物については別個の創造行為があり、原則として違うコンテンツであると考えられます。むろん、単に周辺をいじくっただけの実質的デッドコピーは論外ですが、仮に二次創作物について元創作者の権利が及ぶとすれば、それは少なくとも二次創作物の商品性が元創作物の商品性に強く依存している場合に限られると思います*5。どの程度両者の関係が強くなくてはならないかは司法の判断を待つべきでしょう。つまり、経済学、或いは産業論の立場からは、著作権法上の複製権を拡張してこうした二次創作物の問題を処理することは、問題が大きいというべきです。
 これをさらに拡張するなど言語道断。


 実際の取締としては、警察は無断複製物らしきものに出会った場合、権利者に対して一定の確認行為をとり、それによって権利者が法的措置をとるというのであれば、何らかの措置をする、ということが一般的なようです。親告罪としてのスキームの上ではとても適切な措置だと思います。
 非親告罪か、親告罪かの権利者にとっての違いは、自分で違法行為を発見するコストを負担するかどうかです。上記のようなやり方で親告罪スキームが運用されているのであれば、それを非親告罪にする利益は、権利者にはほとんどないと言わざるを得ない。
 単純な「非親告罪化」は、問題があるだけでなく、実利がないのです。


 そんなわけで、小生はこの「非親告罪化」には全く反対なのですが、もしどうしても「非親告罪化」をするのであれば、少なくとも次の二つの条件を両方とも課さなければならないでしょう。
 ・登録制度その他の方法による「権利者による違法化の事前宣言」スキームの付加。或いは、これと同等と見なせるような、権利者の違法化意思が推定できるほどの「非親告罪化」適用対象の絞り込み(この絞り込み=見なしスキームを選択した場合は、権利者の判断で合法化できるスキームを創設することも必須)。
 ・非営利取引(無償取引、及びそう見なせる程度の小規模な取引)にかかる二次創作物への利用の自由化(著作権(複製権)の例外の拡充)


 これは「著作権法の保護期間延長問題」どころの騒ぎではなく、まさに、「今、ここにある危機」です。



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*1:こんなこともあり、以前の書き込みで、かなり否定的なコメントを出しておいたのですが。

*2:私は契約自由の原則をかなり墨守する立場に立つので、あくまで個別契約や有権な法的宣言による規範のオーバードライブは認める考えです。いわば、ユーザー作成オプションを広く認めるが、デフォルトはとりあえず決めておくということです。

*3:東京地裁昭和46年(ワ)151号昭和51年5月26日判決(認容)〔無体裁集8巻1号219頁〕

*4:実質的にデッドコピーとして考えられるものを含む。

*5:例えば、「北斗の拳」の中に「タラちゃん」がちょこっと顔を出したとしても、それが故に「北斗の拳」を買う人はいないでしょう。そうした場合にまで元創作物の権利者のコントロール権を及ぼす必要はないと考えます。逆に、”サザエボン”のような場合は、牽連性を認め、コントロール権を認めることになるでしょうが