個人情報の開放という産業政策を見つめる

 大ニュースだから、早く反応しておきたいのです。
 というのは、他でもない、マイクロソフトの米ヤフーへの買収提案です。これは、実に考えさせられるところが多い話です。


 コンピュータの技術は強くレイヤー化されていて、レイヤー毎にプラットフォームが重層的に機能しています。プラットフォームには、まさに機能を果たすだけのプログラム体もあれば、ビジネス色の強いサービスも、プログラム体なのにちょっと面倒なことをしているものもあります。
 米ヤフーはサービスプラットフォームの代表例だし、MS-Windowsは個体情報(マシンと所有者の情報)を保有し、また定期的に端末から情報を集めている*1という点では、やっかいなプラットフォームプログラムです。


 ここで、ちょっとプラットフォームをビジネスとして創出し、維持するということを考えてみます。プラットフォームビジネスは、自己流にいえば「ずらしのビジネスモデル」の産業です*2。ずらしたところにビジネスを発生させる大事なビジネスシーズとして、個人情報があります。
 個人情報は、「関心のボトルネック」を解消するための鍵と考えられてます。

 「関心のボトルネック」というのは、産業構造のボトルネック*3が、旧来の「生産(量)」、「流通(量)」から、購入者の認識力そのものになってきたことを示すものです。言葉は僕の造語ですが、同種の指摘は他の人も多々されています。
 「関心のボトルネック」を解消するには、情報の生みに直面して困惑する可能的購入者に、欲しいだろうものを適切に紹介し、そのニーズとソリューションのマッチングをさせて、消費を誘発することがよいと考えられています。これを実現するためには、何より、その可能的購入者が何を求めているかを知らなければなりません。ここに個人情報が大きな価値を持つと期待される理由があります。


 通常web2.0といわれているタイプのサービスの一般則ですが、この個人情報を利用したマーケティングサービスにも、規模の経済性が強く働きます*4。そこで早晩寡占体制が固まるわけです。
 ところで、規模の経済が働く市場に対する態度は大きく二つに分かれます。一つは、その寡占≒部分的独占を法的にも認め、その代わりに事業内容を束縛する考え方。もう一つは、そこに他レイヤーとの緊張関係を導入して、動的調整を意図的に誘発する考え方です。
 前者を適用すると、「プラットフォーム事業法」を作ってヤフーだろうがグーグルだろうが総括原価方式かなんかで法定利益率を作って云々となるのですが、それはかなり難しそうです。それもあって、対処法は後者になります。
 すると、プラットフォームの機能を相対化するためには、こうしたタイプのプラットフォームがその機能を果たすために必要不可欠である「個人情報」を、潜在的競合社の間で競合的に保有している状態を作らなければなりません。言い換えれば、プラットフォーム事業者が、顧客の行為情報やその他の個人情報を独占的に保有し、活用できる状態はまずいわけです。


 ここで、個人情報の保有者をなるべく少数にしようという個人情報保護の問題と、個人情報をなるべく多くの人で共有しようという個人情報開放の問題がバッティングしてきます。昨今の個人情報保護ブームはものすごいものがありますが、それを無批判に受入れ、個人情報開放という考え方に目をつぶっていると、マイクロソフト+米ヤフー(仮に買収が成立すれば)陣営とグーグル陣営の 二強体制が成立し、それに製造業系企業はぶら下がるという事態になりかねません。
 それでいいのかなあということです。


 僕は、個人情報の開放という産業政策の要請を踏まえ、「個人情報を共有できる条件」を予め設定するべきではないかと思います。例えば、ごくごく簡単な考え方でいえば、プライバシーマークをとっている企業なら個人情報を開放してよい*5とか、そういうことです。何かいい方法はないかなぁと思います。


 それとも、だから情報大航海なのでしょうか?すでに競争は機能だけでなくブランド効果も含んだ成熟したものになってきている時に、技術開発でどこまでキャッチアップできるか少し不安にはなります。このダイナミックな動きの中で、所詮は泥縄にならなければいいと心配するのは、僕のひが目でしょうか。




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*1:アクティべーとのためです。他のスパイウェアはないとマイクロソフトはいいます。僕にはわからないから、信じるも信じないも無いので、こう書きます。これが中立的な表現だと思います。

*2:プラットフォームに力を与えてくれる第一利用者を直接収入源にすると逃げてしまうことを皆が知っているからです。例えば、Googleは第一顧客たる一般利用者からはお金はとらず、広告費など別のところから金銭を獲得してます。これは収益点を「ずらした」わけです。

*3:一般的に産業行為は生産・流通・消費という財の動きと、その逆流である貨幣の動きのセットとして相互に連関しています。その中でボトルネックになっている部分にビジネスとしてのレントが集中し、それを狙って様々な事業が行われそのボトルネックをどうにか解消すると、今度は別のところにボトルネックが移っている、というのが経済の発展の歴史の一面でもあります。

*4:それは、仮に「サービスの質∝個人情報量」だとすると、「顧客数∝サービスの質」でかつ「個人情報量∝顧客数」により循環構造が見いだせることからも明かです。

*5:これは開放しても問題がないという条件決めで、開放の義務づけとかではないです。そこはビジネスの問題なのですが、そこにもいずれは踏み込んで、個人情報を共有する事業者間の常識(例えば領収書と同じように顧客情報書を必ず川下は川上に提出するとか)を構築するところまでいったらすごいな、とか、個人的には思いますけど。