私的録音録画補償金の拡大を消費者は望んでいない。だから?


MIAUが実施していた私的録音録画補償金の拡張についてのアンケート結果が公開された。結果は、消費者は望んでいない。
そりゃそうだ。というのが第一の感想。
だから?というのが第二の感想だ。

消費者は、音楽や映像についての一方的受益者である。だから、ちょっと非道いことをいうなら、私的録音録画補償金を負担するどころか、一切合切無料であることを心の中で願っているだろう。私は、欽ちゃん映画が失敗したり*1海賊版のメカニズムを研究してきた経緯から、コンテンツを支えるために自発的にお金を払おうという良心が消費者にあるという考え方を、かなり楽観的なフィクションだと斬り捨てている。
だから、このアンケートの結果は当たり前なのであって、ニュースとしての価値はない。右や左、上や下、手前と奥のバランスを常に求める天秤の館は、こういう一方的な情報にはなんら物事の正統性を認めない。

だが、このニュースは重大なマイルストーンだと言うことをここで宣言しておきたい。

先ほどの私のコメントを間違えないで欲しいのだが、消費者にコンテンツのためにお金を支払う「良心」が全くないといっているのではない。
消費者は払わないで済むものなら払いたくないと思っているだろうが、払えと決まったものを納得するだけの良心は持ち合わせている、と私は思う。
そう。消費者の納得できる線はどこか、それが問題なのだ。

これまでの私的録音録画補償金に関する議論は、審議会という奥の院にしまい込まれてきた。消費者の代弁者として*2の電気機器業界代表と、コンテンツ業界、メディア業界の代弁者としての関係団体代表が、調整役たる政府の役人とともに合意形成をしてきた。その結果、お天道様の下に照らして公正であるかどうかはっきりしないままに料金水準や課金範囲が決定されてきたという反省は、今であればできるだろう。

だからだ。全てはここから始まる。

消費者はノーといった。それに対して、どのくらいの収益減が発生するのか、それを補填する資金をどう集めるのか、そしてそれをどう収益を減じた個々人*3に還元していくのかを説明するという責務が、今度はコンテンツ業界やメディア業界に生じる。
私は、その責務をコンテンツ業界やメディア業界がしっかり果たし、正当な補償金を消費者から獲得することを切に願っている。奥の院の政治工作に依存することなく、古くさい言葉だが、必要な調査を行い科学的な根拠をもって説得的な議論をすることを。

コンテンツという情報財は、すでに物理流通から切り離された流通構造を持っている。それは、対象の物理的支配のみに依拠した自由経済カニズムからは逸脱している。そうである以上、誰が何について誰に対していくら払うかは、人為的に決めなくてはならないし、それを実行しなくてはならない。
言い換えるなら、もし消費者が音楽や映像をこれからも楽しみたいと思うのであれば、コンテンツ産業が、ある程度の効率性は当然だが、その上で十分回るだけのビジネスサイクルを消費者は維持するだけの資金を流す責務がある。

だからMIAUのアンケートは、その結果自体は意味がないが、それが表明されたことで新しい段階が始まるという意味で極めて意義深いのだ。
コンテンツ産業、メディア産業の皆さん、是非反論しましょう。私はその反撃を心から支持する。

*1:「欽ちゃんのシネマジャック」のこと。自己申告制の入場料支払い制度を採用した。話題にはなったが、興行的には失敗。

*2:JEITAはそう任じている。確かに、機器に補償金が上乗せされれば、それで消費者の支払が増える分だけ値上げになるから、補償金に反対するのは消費者利益と合致するといえなくもない。だけど、結局は機器の製品価格上昇に反対しているんでしょ?じゃぁ通信料金や他のものからお金はとるので機器には補償金をかけませんといったら、そういう通信料金への補償金にまで反対するんですかね?

*3:当たり前のことだが、デジタルデータとしてコピーされなかった音楽や映像の生産者にはなんら収益減は発生していないのだから、彼らは補填金を受け取る正統性がない。