小学館が再版・買い切り選択制度をやってみるらしい

 最近、いろんな方々と国会図書館に月イチで集まって、本の未来をあーでもない、こーでもないと話し合う機会がある。いまだに出版とは縁が深い*1
 出版産業の改革に関する天秤の立場は、再販制に反対なのではなく、本をすべて再版取扱にしようという出版社の態度に反対する立場である。天秤は、それを2001年から繰り返し主張してきたつもりだ。
 小学館のこの動きは、再販制問題に対するメジャー出版社側の一つの回答だろう。識見である。RFIDなくてもできるじゃないかよ、とかややツッコミどころはあるものの、まずは歓迎したい。
 出版産業の苦況の一端は、ネットとの関係で圧倒的に不利な流通コストにある。他方で、出版産業の本質は紙としての本にあるから、紙vsネットという構図の中では、まずもってどこまで紙の業界がシステム全体のコスト低減を実現できるかが大事になる。再販指定しないでよい商品を再販に回すと、この全体コストが上がってしまう。だから再販・買い切り選択制なのだが、小学館の巧い*2ところは、それを出版社の指定ではなく、小売書店が選択できるようにしたところだ。
 もちろん、こうした「実験」は、一回ではしょうがなくて、数年単位で、またビジネスモデル開発の責任者も貼り付けて、本気で取り組むことが必須だ*3
 個人的には、今の書籍、コミックに関する利用状況の変化に産業が単純自助努力で対応するのは限界があり、最終的には新型流通と天秤が称する新古書店マンガ喫茶と生産者の間に金流をつくる制度的対応が要ると考えている。だが、それを実現するためには、出版産業の最大限の自助努力が前提条件だ。今回の試みは、その一つとカウントして良い。
 ただ、2001年から主張しているので何か自分でも言い疲れてきたが、もういいかげん、音羽と一ツ橋、飯田橋も入っていいし、トー日販もくんででもいいからブックオフ買収しろよ、ともう一度言っておこう。既存出版産業にとって最良の戦略は、それだと思う。

*1:出版産業の議論は、コンテンツ産業論の基礎になる視座を多く含んでいる。華々しい放送やネットの論議にだけ目を向けるのは、よい態度ではない。

*2:何が巧いって、ここでは言えない。ただ、とても巧妙だ。良い意味で。

*3:どこかの業界のト○ソー○のように、失敗してビジネスモデルは変わらないことのアリバイになることが目的だ、ってぇなことはやってはいけない。