コンテンツ企業にとって事業統合ってさ・・・

コーエーとテクモが事業統合をする方針で合意したと報じられている。寡聞にして知らなかったが、そもそもスクエニからコーエーTOBをかけられていて、これに対してテクモと組む道を選んだということのようだ。
ゲームソフト企業の統合が進んでいる。コンテンツビジネス通を任じる人は、ゲーム界社は今、転機だからねと訳知り顔で言うことだろう。90年代後半から、米国のEA等がスポーツゲーム*1や映画連動ゲームで大きくシェアを伸ばしており、日本のゲームソフト企業は劣勢に立たされている。覇権を握るプラットフォームがファミコンからスーファミへ、そしてPS、PS2へと変わってくる中で、グラフィック能力の向上が開発コスト増へ繋がり、事業収支を圧迫したという説明もよくなされる。
ふむ・・・
それはそうなんだ。で、問題は、統合して本当に事業収支は改善できるのかということだ。


コンテンツ産業、より正確にはメディア・コンテンツ産業とは、コンテンツを製作・制作、流通して収益を回収する事業の総体である。事業体の中は、製作・制作部門とそれ以外に大別できる。製作・制作部門では、コンピュータなどのハード資産、そしてソフトウェアライブラリやキャラクター、タイトル(ブランド)などのソフト資産を活用して、労働集約的*2にソフトウェアを開発する。
天秤は、コンテンツの開発部門を統合することの効果を、実は疑問視している。というのも、労働集約的、或いは才能集約的である場合、せいぜい人材の共有くらいしかできることはないからだ。しかも、才能が関与した時間が収益度に比例すると考えれば、貧乏で開発もできない企業に素晴らしい人材がいたような場合は別にして、才能がフル稼働しているとすれば、結局、関与時間の総和は変わらないので、収益度にもプラスの影響はでないはずだ。
では、統合の効果とは何か。天秤は、三つの効果を指摘しておきたい。
一つは間接部門の効率化、強化。二社が一つになれば、間接部門は一つで済むことになる。テクモコーエーの場合は、海外事業の重複地域が少ないというのが両者の合意理由として上げられているが、これは、統合を海外事業力の強化策とみなしたことを示唆している。
もう一つは不採算プロジェクトのリストラ効果。何らかの理由で経営の肥大化が治せない場合、採算部門と非採算部門が明らかであれば、経営統合によって現れた「余所者経営者」なら大鉈を振るって経営状況の改善ができる。例えば、角川グループはメディアリーブス(=アスキーエンターブレイン)を統合した後、採算力は弱いがまさにアイデンティティとして斬り捨てられなかった月刊アスキーなどをバサバサ斬り捨ててきた*3。一世を風靡した日産のゴーン社長の改革もこの流れで理解することができるだろう。
実は、ここまでは経営論の教科書の世界だ。

三つめは、ここが重要なのだが、コンテンツ産業の本当の資産である人材、キャラクター(或いは原材料としてのコンテンツ)、タイトル(ブランド)を活用して、より新しいコンテンツやメディア体験を生み出すことである。だが、これはなかなか難しい。
合理的なプランであれば、プロジェクトベースで実現可能だからだ。経営統合でうまくいった例としては、古くはPCLという製作会社の価値を見出した阪急グループが東京宝塚との合併で東宝(というブランド、スタジオ)を生み出した例、最近ではバンダイによるサンライズとの経営統合によるガンダムプロジェクトの深化みたいな例がある。そのメカニズムの話は・・・長くなるので、またいつか。

とまぁ、いろいろあるが、言いたいことはだ。基本的には同一レイヤーでの、つまり同業他社との経営統合というのは、まぁ本当の意味での産業の進化ではないのだろうな。ということだ。

おそらく、コーエーテクモは、このプロモーション力のメカニズムを見越して、また開発でも資本集約性が効くと考えて、経営統合に踏み切るというのだろう。まぁ分からなくはない。経営余力を捻出し、生き残る策としては意味があるわけだし。だが、これが真の進化を生み出せるかどうかは、期待してみておくことにしよう。



でも、まぁ良い買収(経営統合)、悪い買収(経営統合)ってあるよね。米国型の資本部門からの市場調整論では語り尽くせないことがコンテンツ産業には多いんだよなぁ・・・ (T_T)



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*1:伝統的に、日本のゲーム産業はスポーツシュミレーションを苦手にしている。そもそも100円で数分の娯楽を提供するアーケードゲームをゲーム機に移植することから生まれた日本のゲーム産業の伝統からは外れているからかもしれない。そういうと、FFやドラクエといったロールプレイングゲームはどうか?と言われるだろうが、あれも米国由来で、日本人が思っているほど日本のゲームは主流ではない。他方で、米国ではアメフトのゲーム化がすでに70年代から行われていた。

*2:メディア・コンテンツ産業全体としては極めて設備産業性が強いが、その中核にあるソフト開発部分=製作・制作部門については一転して労働集約性が高い。これは、一般製造業で言えば、製作・制作は開発部門に、流通部門は製造部門+流通部門に該ると考えれば分かりやすい。

*3:残念ながら、統合後、統合された側から新しい事業が生まれて大成功したという例を寡聞にして天秤はしらない。