アニメ残酷物語の報道について

 公取がアンケートを採った結果、アニメ制作会社の4割が「超低制作費を押しつけられ」ていたことが明らかになった、と各種メディアが報じている。
 これについて二つのコメントを付けたい。
 一つは、こんな当たり前の情報がいまさらニュースバリューを持っていたことに対する驚きである。古くは手塚治虫がフジテレビから55万円/回で制作を請け負ったという民間伝承にもあるように、そんなことは当たり前であったからだ。まぁフランスを中心に日本のアニメが人気だったなどという70年代の小学生でも知っている*1ことが21世紀になろうとしているころにものすごい情報のように語られ始めたような国だから、まぁそんなものかもしれないが。
 もう一つは、その改善についてである。その前に一つ押さえておきたいのだが、この悲惨な事実が現場の「疲弊」に繋がっているという論調であった。つまりは翌問題になるアニメスタッフの過酷な労働条件をここでは問題にしているのだろう。
 結論から言うと、この事実と現場の過酷な労働条件は必ずしも直結している問題ではないい。
 アニメの現場、特に原画マンの労働条件が厳しいのは、a.能力的にまだ低く海外人材との代替性が高いこと、b.そもそも就業希望者が多いこと、c.制作関係者の認識として原画マンは人材育成段階であり、むしろある程度過酷な条件の中で有能な人材をふるいにかける合理性があると考えられていること、というのが理由である。つまりは、労働市場の当然の働きである。
 だから、仮にテレビ局が満額制作費を払うようになったとして、制作会社の収入が上がっても、それで現場の収入が上がるわけではない。
 天秤は、この「悲惨な労働条件」も労働市場の自然な調整で終息するだろうと考えている。まぁ、その分、アニメ産業そのものが収縮するかもしれないが。だが、それでも政府が、そして社会が原画マンの給料を増やしたいと考えているなら、「最低賃金法」の確実な実施を推し進める方がよほど正しい方策だと思う。
 「最低賃金」実施の強化と、アニメ制作会社への資金誘導を両構えで行うことは、政策的に妥当なように天秤には思える。

*1:天秤のことだ。アニメージュを読んでればそれくらいの情報は10歳のガキでも頭に入る。