山梨県によれば、ハイジの村ではコスプレイベントはダメだが、ブライダルショーはOKらしいこと。

先日、山梨県でたった一つの苦情でコスプレイベントをやめた「ハイジの村」について触れた。それで、関連のお役所に対して山梨県に申し入れしろよ、と書いたのだが、他人に言うだけでもなんなので、自分で申し入れしてみた。

長いが、その全文を載せてみる。

========引用はここから========
山梨県農政部花き農水産課御担当様

 初めてお手紙差し上げます、早稲田大学の境と申します。

 6月6日付け読売新聞の報道で知りましたが、フラワーセンターにおけるコスプレイベントが県民の苦情電話一本で中止されたと言うことについて、貴県民ではございませんが、一言、意見を陳情申し上げるべく、メールをさしあげることといたしました。

 まずは、県民の苦情に真摯に耳を傾ける貴庁の姿勢は、行政として極めて高く評価されるべきであることを、まず申し述べさせて頂きます。

 しかしながら、苦情があったことのみをもって事業を撤回するというのも、また、政策を立案し、遂行する事業体としては正しい姿勢とも思われません。そもそも政策は十分な検討のもとで決定されたものであり、貴県民88万人が県庁の政策におしなべて賛成、又は容認であるということが想定しづらいことからしても、苦情というのはあくまで政策遂行に於ける参考意見にすぎないことは言うまでもありません。
 私自身、長く行政官として奉職してまいりましたが(現在も身分上は公務員です)、苦情に対して、真摯に耳を傾け、できうる限り満足してもらえるようにと対応を心がけはしつつも、時として、むしろ政策の意図、考え方を縷々説明申し上げ、説得することもございました。

 報道に拠る限り、標記イベントはそれなりに集客効果があったように思われ、政策としての有効性もあったろうと考えております。
 21世紀に入ってから、我が国の産業政策の中にも、単なる性能・効用と価格とを見比べながら消費するような単純な経済行為に加え、精神的満足を積極的に消費意図の中に織り込む高度な経済行為へと関心を移している面があります。いわゆるコンテンツ立国という議論は、文化庁経産省総務省の政策だけでなく、例えば国土交通省が旗を振ったフィルムコミッション運動(現在は文化庁がフォローしていますが)や外務省も国際交流の重要なアイテムとみなすジャパン・クール運動など、様々な拡がりを見せています。
 標記イベントは、こうした国の方針や、人々の関心にも合致した、まことに時機を得たものであったように思います。

 報道に拠れば、苦情は「子供からお年寄りまで花を楽しむ施設に、若者が大挙して集まるイベントはいかがなものか」というものだったとのこと。確かに年配の方にはそう思われるかもしれませんが、それでは子供達向けのイベントも、年配の方向けのイベントも、何もできないことになります。年配が大挙して集まるのはよいが、若者が大勢集まるのは問題だというのでは、バランスを欠いた苦情であると言わざるを得ません。
 また、撮影のために花壇に入って注意されるケースもあったとのことですが、これはルールをより一層徹底するとすればすむことで、イベントを中止するまでの理由にはならないと思われます。私も幼児二人の父親ですが、子供達が私たち親の目をかいくぐって公園で花壇や芝生に入ることはしばしばあります。イベントで参加者が花壇に入ることがあるのでイベントを中止するのであれば、こうした花壇に入る子供がいるので幼児は入園禁止にするべきだと結論づけなければならないことになります。

 ただ、これらのことは、ごく当然のことであり、貴県庁の方々にあえて申し上げる必要もないものでありましょう。そうであれば、標記イベントを中止すると決定した背景には、おそらくは、政策効果が思ったほどない、費用が過剰である、またその他の報じられていない様々な問題があったのだろうと推察申し上げます。私も東京国際映画祭の組織・実行委員会の事務局長としてイベントを取り仕切った経験がありますので、こうしたイベント事業は表からは見えない様々なトラブルがあることもよく分かっているつもりであります。
 しかしながら、標記イベントの国政との整合性や性質の先進性にも鑑みれば、貴県庁の特段の配慮をもって、その復活、または代替イベントの実施を決定願えないかと思っております。苦情の申し立てた方にしてみても、一度は中止の決定をしたというだけでも、皆さんの真摯な態度は伝わったと信じております。
 どうか貴県庁におかれては、善後策を講じていただきますよう、要望させて頂きます。

 私自身は貴県の出身者でも県民でもなく、年に数度観光で訪れるだけの者にすぎません。しかし、もし標記イベントが復活、又は代替イベントが実施されるのであれば、是非、その際にまた観光で訪れたいと思っております。

 最後になりましたが、貴県庁の皆様がますますお元気で、県政の実施に邁進されますことをお祈り申し上げます。

 乱文乱筆、誠に失礼致しました。
 
========引用はここまで========


その返事が本日、届いた。
返事を無断で載せるのは通信の秘密に反するだろうからここでは割愛するが、結論は×。

その理由は、「ハイジの村」は「県民に花とふれあう機会と自然に親しむ場を提供するとともに、花き生産の振興に資する」という目的で設けられた施設であり、広く県民が花と緑にふれあい自然と草花の係わりについて学ぶ場としてセンターが利用されるよう、花きの植栽、展示、講習会や花きに関する催し等を実施することが本来の主旨だというのだ。コスプレイベントはその主旨にあわないというわけだ。役所的な言い方をすれば、目的外使用の禁止というヤツである。
なるほど。「ハイジの村」の担当課は農政部花き農水産課で、おそらく国、農水省補助金を使っているのだろう。花とふれあう、自然と触れあうことによる農村振興、そんなロジックなのだ。効果だけ上がればよいというわけではないのである。

私は、言われてイベントの中止に納得した。
というか、確かにここまでくると裁量の範囲内で、陳情しかできないわな(上記のメール自体、陳情なんだけどさ)。

役人は、決められたことしかできない。法律*1による行政の原則というヤツだ*2。また決められた文言の範囲内なら、それを具体的にどう解釈するかは、基本的に担当者の裁量だ。その原則に立ち返れば、花き農水産課を非難することはできない。
それどころか、県民でもないいち国民の要望書にしっかり理由付きで回答するという姿勢は、役人としてとても誠実なものだと評してもよいくらいだ。
確かに、本当に必要なことができるように法律を変えることを期待することもできる。それができれば大したものだが、できなくても非難するには当たるまい。所詮、役人というのはそういう稼業である*3

制度を恨んで人を恨まず。人を変えるより制度を変えるべし。
だから、恨み言は言わない。申し入れをして、拒否されたこと、それだけを記そう。

ただ一つ、気になったことがある。「ハイジの村」ではブライダルショーとかやってるらしいのだ。デザートビュッフェ付きで1000円。コスプレイベントが「花きの植栽、展示、講習会や花きに関する催し等」に入らないのはよくわかるが、このブライダルショーが「花きの植栽、展示、講習会や花きに関する催し等」に入るかどうかには、私としては疑問を禁じ得ない。

皆さんはどう思うだろうか?





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*1:予算も法律の一形態だ。

*2:決められたこともできない、しない役人がいるが、それはとりあえずここでは無視。

*3:少なくともそう思っておいた方が、悲しい思いをしなくてすむことが多い。